* 「子どもにスマホは“覚醒剤投与”と同じ」
この言葉は川島隆太先生(東北大学加齢医学研究所所長、専門は脳機能イメージン学)が月刊誌などの情報ツールを通して、繰り返し警告していることです。
前回の「しゃべり場通信」に紹介しましたが、川島先生は2013年から7年間、仙台市の7万人の子ども達の脳の調査をしましたが、スマホやSNSを使えば使うほど学力が下がることが分りました。睡眠時間や勉強時間に関係なく、スマホを使うことによって、勉強した大切な脳の記憶が消えているという恐ろしい現実です。
川島先生の記事が月刊誌「Hanada」(2025年3月号)に掲載されていましたが、その記事の中に『子どものデジタル脳 完全回復プログラム』(アメリカの精神科医ヴィクトリア.L.ダンクリー著)が紹介されていました。
私は早速に取り寄せて一読しましたが、そこには川島先生が考えていた以上に、スマホが子ども達の脳の発育に悪影響を及ぼしていることが書かれていました。
川島先生の調査では、スマホの使用は「1時間未満」なら問題ないと考えていましたが、上記の著作では、たとえ30分画面を観ただけでも、子どもの睡眠に悪影響が出ると言います。
* GIGAスクール構想
文部科学省は2019年よりGIGAスクール構想を推し進めています。全国の小中高校の児童・生徒1人1台のタブレット・PCと学校内に高速通信ネットワーク(Wi-Fi)を整備する教育改革です。ICT活用により、全ての子供たちの可能性を引き出すことを目的としています。
この構想は、新型コロナウイルスによる休校期間のオンライン授業の必要性から加速し、デジタル教育への転換を大きく進めました。
文部科学省が説明する主な目的と取り組みは、「個別最適化された学び:子供たち一人ひとりの習熟度や興味に合わせた学習を実現」、「創造性を育む:従来の一斉授業に加え、ICTを活用した主体的・対話的で深い学びを促進」、「格差の解消: 居住地域や経済環境に関わらず、すべての子供に最新の教育環境を提供」、「教員の働き方改革: デジタル採点や情報共有の迅速化により、校務の効率化を図る」ということです。
* 子ども達の未来のために
上記のように文部科学省が推し進めている「GIGAスクール構想」が子ども達の未来のために有効なのかどうかは、さらなる検証が必要だろうと思います。
川島先生は仙台の7万人の小・中・高校生を対象に、広く浅く、けれども確実なデータをとる形で、スマホの使用の問題点をあぶり出しました。いわば、森を見る作業です。
一方、『子どものデジタル脳 完全回復プログラム』の著者は、精神科医として「木を見る」形で、メンタル面や行動面で問題を抱えている多くの子ども達を診察して、その中で、スマホなどのデジタル機器の危険性に気がついていったのでした。
「森を見る研究者」と「木を見る医者」の双方が、「デジタル機器(スマホ、タブレット)は危険だ」と同じメッセージを発信していることに対しては、子ども達の心身の成長に直接に関わっている私達大人や、特に教育現場に携わっている者達は、十分に耳を傾けなければならないだろうと思います。
文部科学省内に設置されている研究所であり、教育政策に関する調査や研究を行っている国立教育政策研究所が2019年に出したOECD(パリに本部を置く、日米欧などの先進38か国が加盟する国際経済機関)の加盟国の学力と、情報通信技術を活用したICT教育の利用レベル(学校に設置されているPCの台数やインターネット利用量など)の調査では、ICT教育を進めた国ほど学力が低下していることが分かりました。文部科学省内に設置されている研究所が、このような調査結果を出しているのにもかかわらず、文部科学省がGIGAスクール構想を推し進めようとしていていることに、私は大きな疑問を感じざるを得ません。
* メンタルを追い詰めた犯人はスマホ
上記に紹介した本では、著者である精神科医が体験した、まさにスマホが覚醒剤そのものであるというケースを数多く紹介しています。
たとえば、ハイテンションで活動的な躁状態と、憂うつで無気力なうつ状態を長期間(数週間~数カ月)繰り返す双極性障害と診断されたリリーのケースです。リリーがPCを使って長時間をゲームやネットに費やしていることに気がついた著者は、彼女にデジタル機器からしばらく離れることを提案しました。始めた最初の数日間、リリーは泣き叫び、ドアを乱暴に叩き、物を投げて罵り、母親曰く「まるでヘロインを抜いているようだった」と言います。
しかし、数週間後、リリーはすっかり落ち着き、最終的には復学するだけでなく、薬の量も大幅に減らすことができました。
ところが、しばらくたったころ、「リリーの気分が急に落ち込み、自殺を考えている」と母親から連絡がありました。母親の話を聴き、著者はリリーを悪化させた犯人を突き止めました。両親が与えたスマホでした。リリーは一日中、スマホでメールを送ったり、ゲームをしたりして、ネットにアクセスしていたのです。すぐにスマホの使用を中止させ、薬の量を増やすことなく、無事に学校に復学できました。
本には、デジタル機器の恐ろしさを物語るケースが数多く紹介されていました。
<文責> 勝山幼稚園 チャプレン(武井 義定)


